「Gスピリッツ」今月号ゴッチ特集の凄さについて。

最初に言っておこう。
「僕がカール・ゴッチの存在を知って33年になるが、これほど詳細な論考を見たことがない」


今月「Gスピリッツ」誌に掲載されている那嵯涼介氏筆による「Uの源流を探る カール・ゴッチとキャッチ・アズ・キャッチ・キャン 前篇」である。
何と総ページ数24ページ!! 今、ゴッチとキャッチレスリングについてこれだけのページ数を割くのは「Gスピリッツ」誌だけではないか。ゴッチさんとジョシュ・バーネットの対談を掲載したゴング格闘技昨年1月号でさえこの半分の分量であったことを考えても、その力の入れようが分かる。
さらにはその内容の濃密さときたら凄まじい(笑)。ゴッチ評伝といえば、今年2月NUMBER誌に柳澤健氏が掲載した「神の足跡」が記憶に新しいが、正直今回の那嵯氏の足元にも及ばない(まあこれは柳澤氏気の毒なとこもありますね。分量的制限もあるし、一般誌であるNUMBER誌からは「ゴッチ熱の冷めないうちに」という要請もあっただろうし)。
とにかく一読していただければ那嵯氏の情熱の強さがよく分かる、恐るべきマニアックなものであります。マニアックすぎてついていけない読者もいるのではと心配するぐらい(苦笑)。まあワタシみたいな変態は喜んで熟読するわけですけどね(笑)。


ただ熟読するがゆえに、不満に思うとこもあります。
まずゴッチさんの「蛇の穴」スネークピット入門当時、軽量級の選手にまで極められた様子を事細かにビル・ロビンソン氏が証言しているわけですが・・・虚心坦懐に言えば、
「53年に入門したはずのロビンソンが、なぜ51年のゴッチ入門時のことをそんなに詳細に証言できるのか?」
これは単純に疑問に思われても仕方がないのではと思うのですよ。その場で見ていた者の証言ならともかく、そうでないのなら少なくとも複数の人間の証言をとるべきではないのか。それが不可能なら、「・・・という疑問は残るが」という但し書きをつけるべきではないのかと。
ましてロビンソン氏が少なからずゴッチさんと不仲であったというのはフアンならば周知の事実なのだから(57ページ下段のゴッチさんロビンソン氏両雄の写真キャプションに「憎み合ったことは一度もないはずである」とありますが、逆にいえばそういうキャプションをつけねばならない背景があったということでもありますよね・^^;)、その辺のデリケートさからいってもここは、「ビル・ロビンソンによればイスタス(ゴッチ)は軽量級の選手にまで極められる苦戦を強いられたという」ぐらいの書き方でとどめるべきではなかったかと。
・・・まあゴッチ信者のたわごとではありますがね(^^;)。


また序盤に「ゴッチの通うレスリングクラブにサンボを習得したロシア人がいた」というフレーズから始まる一節があって、ゴッチさんがその技をいろいろと検証していたとなっているわけですが、この部分はこれで通り過ぎるのは実に惜しい!! ゴッチさんがアキレス腱固めやヒザ靱帯固め、ヒザ十字固めなどの足関節にどの程度熟達していたかを知るいいチャンスなのに!!(麻生秀孝氏によれば「U系の選手はヒザ靱帯固めを知らなかった」となるわけですが、もしそうならゴッチさんがそれを伝えなかったのはなぜか、など多くの疑問が生じる部分であります)
あと、ビリー・ジョイス国際プロレスで不振だったのは、単純に年齢のせい(当時52歳)だったのではと・・・。まあいいやこの辺は(^^;)。


まあしかしそういった不満を残しながらも(逆にいえば僕をしてこの程度の不満しか出さしめないというのは那嵯さんの検証がいかに精密かということでもあります^^)、この記事はやはり凄い。ほとんどゴッチさんに関しては史上最強の特集記事であります。後篇が再来月のGスピリッツに載るようですが、今から楽しみですね。
ついでにいえばGスピリッツはほかの記事もなかなか面白い。まあ冒頭のU誕生秘話(あんま秘話でもない)はどうでもいいけど、淵正信の話がなかなか面白いんですね。淵さんは今までのGスピリッツにも出てるけど、毎回興味深い話で。
馬場さんに挑戦してきた柔道全日本王者の岩釣兼旺氏と道場で戦った話が出てるけど、凄いじゃんフッチー!! 柔道全日本王者と引き分けたんだ!!(しかも押し気味に!!)ちょっとホンマかいなと思うとこもあるけど(笑)、まあしかし同じ都内に今も住んでるみたいだから、根も葉もない話じゃないんだろうなあと。
やっぱ大したもんですよ、ゴッチ門下は!! あ、ゴッチさんに入門する前か(笑)。


で、絶賛したとこで文句をまた一つ(笑)。34ページ下段に載ってるゴッチさんとエデイ・タウンゼントさんが談笑してる写真!! きちんと説明入れないと、これエデイさんと分からないでしょ!!(怒)
ちなみに力道山が残した日本格闘技界への最大の貢献は、ゴッチさんとエデイさんを日本に呼んだことだと思ってるのですけどね、僕は。
日本プロレス界とボクシング界、最大のコーチの二人を呼んだわけだから・・・。


ともあれ、いろんな意味でGスピリッツ、今月の推薦図書であります。そしておそらく再来月も(笑)。ではではまた。


追記:

もう一つゴッチ論考で気になったのが、ゴッチさんがナチスドイツに強制連行されたさいのいきさつを前述のナンバー記事で柳沢健氏は「父親の窃盗行為のため」と明記してるわけですが、那嵯さんは「父親に原因があったのかもしれない」とぼかしてますね。これは柳沢記事からの引用を意地でも避けたのか、それとも柳沢記事の確証がとれず信憑性がおけないとしたのか? なんか両方という気もしますが(^^;)。


後、「ビリー・ジョイスは2000年9月に亡くなった」との記述は、ゴッチさんが亡くなった際、前田日明が「ウエイン・ブリッジを通じてビリー・ジョイスさんにも連絡をとった」と言ってるのを真っ向から否定する形で実に面白いです(^^)。
まあ前田さんも大ボラが多いからなあ・・・もしくは誰か別のオールドタイマーと勘違いしてないか前田さんは(苦笑)。船木優治(まさはる、現・誠勝)のU入団時に、選手紹介で「今度入団した船木ゆうじ選手です」と言ってしまう人だから(笑)。
まあこの辺は前田さんのホラか勘違いで間違いないと思います。元フアンとして確信(^^;)。