我々は「ザ・レスラー」を観る必要はないかも知れない。
ミッキー・ローク主演で、架空のレスラーを見事に描いたとして名画と評判の「ザ・レスラー」だが。
我々日本のプロレスフアンはそれを観る必要はないかも知れない。
なぜなら。
我々は三沢光晴を知っているじゃないか。
海外遠征からいきなり呼び戻され、
二代目タイガーとして虎の仮面をかぶらされ、
天龍のSWS移籍とともに、
その仮面を脱ぎ捨てて鶴田のライバル役を当てはめられ、
常に他人の要望に応えていた男が、
鶴田の肝炎による戦線離脱に際し、
必死になって団体トップとして戦っているうちに、
いつの間にか新団体の社長に押し上げられていた。
しかしやがてタニマチとのつき合いや経営の心労から、
体調を崩し、以前のようなムーブもバンプもとれなくなっていく。
そしてかつては受け身をとれていたかもしれない危険技での、
いきなりの終焉。
バックドロップを受け、息絶えるその瞬間、走馬燈のように今までのレスラー人生がオーバーラップする。
それだけで一編の映画ではないか。
あまりにも切なく、あまりにも悲劇的な。
繰り返し言う。
我々は「ザ・レスラー」を観る必要はない。
三沢光晴を知っているから。