ベストセラー『木村政彦はなぜ〜』が描く「岩釣兼生氏の馬場(実は当初は猪木)への挑戦」について。

今年の大宅壮一ノンフィクション賞候補にプロレス・格闘技方面から2作が選ばれたようで。


>第43回大宅壮一ノンフィクション賞の候補作が決定しました。選考委員会は、きたる4月10日(火)午後5時より、「帝国ホテル」にて開催いたします。
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増田俊也(ますだ・としなり) 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社刊)

柳澤 健(やなぎさわ・たけし) 『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(文藝春秋刊)



まことにめでたい限りなんですが、木村本には一方でこんな批判もあり・・・。


http://omasuki.blog122.fc2.com/blog-date-20120327.html


Kaminoge vol.4で、グレート小鹿が「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか」を論じている。


「あなたがリスクを背負って会社を作ったと。カネを出して、いちから組織を全部作って会社を大きくして、そこに俺がパートタイムで雇われて入ったとき、あなたと俺が対等の条件だと思う?」
「もし戦ったら、なんていうのはナンセンスなんですよ。木村さんは柔道で強くて、やさしい人だった。おいらはそれだけでいいと思うんだけどなあ」


>100%同意。当ブログでもまさに、「社長対契約社員なんだから」と言う言葉で論じたことがある。この本の発売当時の評判の良さは、すごく不思議だった。ナンセンスだとしか思わなかったからだ。



まあこれは筆者批判というよりは、力道山への恨みを馬場さんに持ち込んで復讐させようとした岩釣兼生氏(全日本柔道選手権優勝者)の取り巻きへの批判ですけどね(苦笑)。
もっともだとは思います、ハイ。


ついでにいえば、岩釣氏が全日本入りしようとしたときのことが『木村政彦はなぜ〜』にはこう書かれているわけです。



「それで君自身はどうなの、岩釣君。デビュー戦は誰とやりたいの」
「まずは猪木さんだと思っとります」
「なに……?」
 馬場が腕を組み直して、しばらく唸った。
「新日と話がつくと思ってるのか? うちの団体の中にはやりたい相手はいないのか?」
「それなら馬場さんとお願いします」
「……俺と君がか?」



……これは76年夏、つまりその2月に猪木がルスカに勝った異種格闘技戦アングルのあった後の話。
柔道サイド(岩釣氏の取り巻き)から見れば、木村政彦への復讐と同時に「ルスカを異種格闘技戦に引っ張り込んで柔道に泥を塗った猪木をやってしまえ」との思いがあったのだろうと。


で、滑稽なのはそれを全日本に入ることで成し遂げようとしていたこと。
柔道サイドは「新日本と全日本は敵対している、だから猪木にケンカを売るなら全日本」と思っていた。
プロレスの興行形態も敵対事情も分かっていない。
というか、知る必要もないと思っていたのではないか。


プロレスサイドから見たらおそろしく馬鹿げた話だろうと思いますねえ・・・。


木村政彦はなぜ〜』が「師の仇討ち」として美談に描こうとしている「岩釣氏の馬場(当初は猪木)挑戦」にはそういう側面があることを知っておく必要があると思います・・・。


木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』が増田俊也氏の情念のこもった名著であることを十二分に認めた上で。


ではではまた。