今は亡き王女のための

HNの後に(仮名)と付けるのが面倒になってきたミヤです。
今は亡き王女のための〜 とくれば回転木馬のデッドヒート収録の初期の短編ですが、このタイトルの後に パヴァーヌ と付けたくなりませんか?

前回からのクラシックつながりで、こうしたネタをさらっている訳ですが、春樹氏が今は亡き王女のためのパヴァーヌ をイメージして書いたかどうかは不明ですが、ラヴェル作によるこの曲と同様に、ある種独特の魅力あふれる作品だと思っています。

スポイルされるまで大事に育てられた美しい少女との体験の回想とその後日談という形態をとった短編小説。
中心に語られている女性はあらゆる才能にも溢れているが故、自分の感情をコントロールする術をもたず、周囲を傷つけることで日々を過ごし、その行為は彼女の才能の表れとして賞賛されてすらいる。ふとしたきっかけで僕(学生時代の作者?)と一夜を共にするが性交渉には至らず朝を迎える。その十数年後、偶然知り合った彼女の主人から現在の彼女の様子を知り、表面は平静を装いつつも、内面ではどうしようもなく混乱する。

どうやら世間では美人といえばワガママという図式が出来上がっているらしいですねぇ。 一度私も 「オレの彼女は美人だからワガママでさー」 なんて言って愚痴をこぼしてみたいです。(笑)
くだらない冗談は置いといて、今の春樹氏ならこのショートストーリーを気の利いた物語として描いたのでしょうが、回転木馬〜の出版は1985年。村上ワールドには羊男概念は登場してはいても、あちら側の世界や精神世界も含めた内面描写があまりなされていなかった時代。初期の素朴な味わいに溢れた短編作品ということになるのでしょうか。
素朴ながらも美く、心乱される旋律、ちょっぴり物悲しいストーリー。読み終わり、聴き終わり、後ろ髪惹かれる思いが両者を結び付けていると思うのです。

皆さんはどう感じますか?