君は楊文里を知っているか。

表題に続いて再度問う。君は知るやあの楊文里の機略を!!
何、知らぬ? あの古今無双の名将を知らぬとは何たることか。
大宇宙のほとんどを制した強大なる帝国軍艦隊を相手に、知略の限りを尽くして渡り合った「黒髪の魔術師」楊文里を知らぬとは!!
やむをえん、漢字表記で分かりにくければ、片仮名表記して差し上げよう。・・・ヤン・ウェンリーと!!!


等ともったいぶってしまったが、まあ要するに「銀河英雄伝説」こと「銀英伝」の話であります(笑)。
いや、ネタ探しにふらふらネットサーフインしてたらですね、何と銀英伝が中国で出版されたという話が出てたので、ここに注目。


http://sankei.jp.msn.com/entertainments/game/070930/gam0709301527004-n1.htm


■なぜ、いまごろ銀英伝??いや、最近の中国の文芸作品発禁状況をしらべようと、本屋にかよっているうちに、こんな風景をみかけて、思わず小躍り。どーっと、青春の思い出(おおげさ)がよみがえってきたのだ。


 ■銀英伝と聞いて、きっとこのブログにいらっしゃる方は意味がわからないだろう。きっと今の若い人もほとんど知らないだろう。田中芳樹著「銀河英雄伝説」という私が高校から大学にかけて夢中になったジュブナイル(青少年向け小説)のことである。もう、20年も前のこと。しかし、ジュブナイルといっても、おそらく、これほど完成された日本人によるスペース・オペラは銀英伝の前にも後にもない、と思っている。。それが、昨年夏から、北京出版社系列の北京十月文芸出版社が、ちゃんと徳間書店から正規の版権を買って、中国語で出版されていたのだ。


 ■どんな物語かというと、ウィキではこんな風に紹介されている。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%80%E6%B2%B3%E8%8B%B1%E9%9B%84%E4%BC%9D%E8%AA%AC

 ■というわけで、今日のエントリーは、知らない人にはぜんぜんおもしろくもない“銀英伝語り”。6カ国協議中は、プレスセンターに張り付いてばかりで、時間をもてあましぎみなので、趣味に走ったブログかいちゃう。


 ■1982年から1987年にわたって出版された「銀英伝」全10巻は実は96年に台湾で翻訳出版され、それがネットや海賊版により中国に流入、以後十年にわたって銀英伝ファン地下組織(つまり海賊版でファンになった非公認ファン倶楽部)が発達している。「銀英連盟倶楽部」「星之大海」「紅茶館」などだ。



 ■私が上海に留学していた98年当時、アニメの海賊版がすでに流入、アニメで好きになった人も少なくない。銀英伝に影響をうけた中国若手SF作家もたくさんおり、というか、宇宙を舞台にした中国SFで銀英伝の影響を受けていない作品はない、とまでいわれている。武侠ファンタジー「誅仙」の著者の蕭鼎なども、銀英伝崇拝者のひとり。


 http://comic.sina.com.cn/w/2006-08-03/175697615.shtml 


 ■さて、海賊版で開拓された中国銀英伝市場に、昨年、正規版出版された。一番よろこんだのは、もう海賊版で物語を読み尽くしたはずの銀英伝ファン。そう、海賊版が必ずしも正規版を駆逐するわけではないのだ。良書を駆逐するのは政治なのよ。本当のファンは、正規版が出れば、条件反射的に買ってしまう。私も思わず中国語版を「大人買い」。家に帰ってむさぼり読んでしまった。村上春樹作品の翻訳などは、村上文体のムードが伝わらないものが多いが、あの独特の田中文体(ちょっと時代がかった言い回しだとか、宝塚歌劇かと思うような過剰にして華麗な修飾語いっぱいのセリフとか)は中国語表現が実にうまくはまり、大満足。あえていえば、主役のひとり、ヤン・ウェンリーの名を楊威利(ヤン・ウェイリー)に変えていたこと。ウェンリー(文利)だと、中国人としてはあり得ない名前なのか?


 ■さて、銀英伝、つまり20年も前の和製スペース・オペラが、なぜ中国でこんなに大ヒットし、中国SF界にもインパクトを与え、今をもって中国の若者に愛されているか。正規版出版に際しての宣伝文句では「20年を経て、中国国内で初めて正規出版!広大な銀河を舞台にした壮麗なる英雄叙事詩!日本では1512万部が売れた!」「東方版“スターウォーズ”宇宙版“三国演義”」。


 ■そう、銀英伝は「三国演義」や「史記」など、あきらかに中国古典を底本にしたような、エピソード、作戦、人物造形がある。実際、作者の田中芳樹さんは中国語版出版にあたり、「私が文章を書いている紙は、2000年前、東漢蔡倫が発明したものだ。私は少年時代、西遊記水滸伝三国演義史記を読み、物語と歴史の妙味を知った。私は中国文化の恩恵を深くうけた。今、私の作品を中国で正式出版することで、中国文化に少しでも恩返しができるなら、こんな光栄なことはない。みなさん、楽しんでください」と述べている。


というわけで、銀英伝は今や中国を席巻しそうな勢いを示しているらしい(勝手な解釈・笑)。
しかしこの筆者は「青春の思い出(おおげさ)」などと書いているが全然大袈裟でも何でもあるまいよ。僕にとっても銀英伝は青春の思い出であり、また今も継続中の夢でもある。今年も何人か洗脳したもの(笑)。


かつて僕が書いた図書館だよりのコラムを引用するなら、


>「銀河英雄伝説」(以下「銀英伝」)はSFであり宇宙活劇(スペースオペラ)である。しかしただの宇宙活劇ではない。作者・田中芳樹の卓越した歴史観・人間観に裏打ちされた超一流の架空歴史大河ドラマなのだ。ああ、「アメリカン・グラフイテイ」を撮った直後のジョージ・ルーカスにもしこの「銀英伝」を見せたとしたら、きっと「スター・ウオーズ」を撮ることなくこちらを嬉々として映画化しただろうに!!!

>時は宇宙歴796年(西暦3596年)、最愛の姉を銀河帝国皇帝の愛妾として差し出された美しき金髪の青年ラインハルト・フオン・ローエングラムは銀河帝国への憎しみを胸に弱冠20歳にして帝国軍の元帥にのぼりつめる。そして赤毛の忠実な部下にして友人ジークフリード・キルヒアイスの補佐を受け、銀河帝国ゴールデンバウム王朝を滅ぼし、自らが皇帝となって、対立する自由惑星同盟に戦いを挑み、宇宙の統一に乗り出す! その前に立ちふさがるのが同盟軍の智将・「黒髪の魔術師」ヤン・ウエンリー!! 「力こそが正義」と信じるラインハルトと「出来れば軍人なんかやめたいね」とつぶやきながら戦いに臨むヤン、この対照的な二人の天才の虚々実々の駆け引きを軸に、大宇宙を舞台とした壮大な人間ドラマが展開される、それこそが「銀英伝」の魅力なのだ。


といったところか。前出のコラムの表現では「これほど完成された日本人によるスペース・オペラは銀英伝の前にも後にもない」とあるが、まさにパーフエクトなSF活劇だ。あまりにパーフエクト過ぎて、作者・田中芳樹は未だにこれ以上のものを書けてないくらいで(苦笑)。
(まああえていうなら色恋沙汰にかけては田中さんは全く書けてませんね。ラインハルトの結婚のいきさつなんて「大昔の少女マンガかよ」てな感じでのけぞったものですが・苦笑。まあスペースオペラには必要ないっちゃ必要ないんですけどね)


しかし改めて記事読むと「日本で1512万部売れた」とありますが、全10巻の1500万部となると一巻が150万部。87年のヒット商品「デイライト・スライト・ライト前ヒット」もとい「デイライト・スライト・ライトキッス」(松任谷由実)や「サラダ記念日」(俵万智)「ノルウエイの森」(村上春樹)といったとこが軒並み200万売れた(「ノルウエイ」は400万部だけど、これは上下巻合わせてだから)こと考えると、やはりそれに次ぐ大ブームだったのだな、と痛感します。


今から銀英伝読むというヒトは幸福です。あの興奮をこれから味わうことが出来るのだから!!(中国の方々はルドルフ大帝のエピソードを読みながら、かつての毛沢東の暴虐を思い浮かべてほしいですな・笑)
で、老婆心ながら言わせてもらえば、2巻から読むと案外いいかも。1巻の最初からだと銀河帝国(ゴールデンバウム王朝)の成り立ちとか書かれてて少々うざったい(苦笑)。2巻の最初の方がヤン・ウエンリー提督のキャラクターとかにさっと移入できていいのでは、と思う次第です。

「・・・あ、提督。銃は?」
「私が持っていて、当たると思うか?」
「・・・いいえ」
「なら必要ない」

とかね(笑)。面白いですよー。書店ですぐに手に入らなければ(注文すればすぐ入ると思うけど)図書館で借りてでも読むことオススメです。
ではではまた。



PS・ あー、ちなみに引用コラムの筆者はヤンの漢字表記を「楊文利」にしてますが、これは「楊文里」が正しい。なぜ正しいかというと20年前田中芳樹氏がそう書いていたからです(笑)。なつかしの「SFアドベンチャー」、復刊しないかなあ。